病診連携

行岡病院

整形外科 手外科センター 正富 隆


手外科における3Dシミュレーションとその臨床応用(2016.7.27)

 当院の「手外科」には4名の「日本手外科学会認定手外科専門医」を擁し、7名の作業療法士が専門的な手のリハビリテーションに携わっています(スライド1)。現在804名が「手外科専門医」として認定され、その1名以上が在籍する「手外科認定研修施設」は426施設あります。これからもわかるように、4名もの手外科専門医が在籍する研修施設は極めて稀で、全国でも研修施設の多い大阪府下においても当院の他、大阪大学が1施設あるだけです。加えて専門的な手のリハビリテーションの出来る作業療法士が7名も在籍する研修施設はありません。ですから当院の「手外科」もその自負と責任を自覚し、日々の診療にあたっております。残念ながら主要手術日である火曜日は専門医が外来に出られていませんが、各曜日専門医の外来出務を心がけております。また当院は救急病院でもあり、外科担当救急医は上肢の外傷について原則全て受け入れ、専門医がバックアップできる体制を整えておりますので、地域の先生方に積極的にご利用、ご紹介をいただけますようお願い申し上げます。

 今回は当院手外科の昨年の手術実績の中から(スライド2)、近年進歩著しい画像診断モダリティー(CT, MRI)から得られたデータを用いた「3Dシミュレーション」とその臨床応用について、実際の当院の症例を例に取りながら現状をご紹介したいと思います。当院ではいち早く大阪大学整形外科で開発されたDICOM volume dataから骨を半ば自動的に抽出し、3DモデルをPC上で作成できるソフトを用いて(スライド3, 4)、変形の評価・矯正手術のシミュレーションを臨床に用いております。健側の鏡像を正常モデルとし(スライド5)、それらを近位同士そして遠位同士を重ねあわせることにより、これもほぼ自動的に変形が評価できます。すなわち近位を重ねあわせた状態から遠位部を「どの変形軸周りに何度回転させれば」正常遠位部(健側鏡像)に重ねられるか、が自動的に割り出されるのです(スライド6)。実際の症例をご紹介します。

 14才男児、右前腕の両骨骨折の変形治癒で、主訴は回内制限と回内時の橈骨頭の前方脱臼です(スライド7)。3D評価により変形軸(ピンクで示す)と、その軸周りに何度回転させれば良いか(変形角度)を割り出しました(スライド8)。しかし実際の手術においては、骨切部位を決定し、目には見えない変形軸を見極めて骨切して必要なだけ回転させるのは困難です。そこで3Dプリンターのような3D造形技術によりモデル骨を作成し、その変形部にフィットして「変形軸に垂直」に骨切できるスリットと、変形を矯正すれば平行になるはずの近位遠位に2本ずつのKワイヤーが刺入できるガイド穴を持った骨切テンプレート(ピンク色)も3D造形により作成します(スライド9)。これを骨の変形部にあててKワイヤーを刺入しておき、スリットから骨切します(スライド10上段写真)。その後骨切テンプレートを割って除去し、これも予め作成して降りたKワイヤーが平行に保持できるジグにKワイヤーを通して矯正整復位を保持し(スライド10中段写真)、その状態でプレート固定します(スライド10下段写真)。必要なら骨モデルに合わせて、予めプレートをベンディングしておいて滅菌準備しておくことも可能です。このように矯正することで回内しても橈骨頭の脱臼は生じず、回内制限もとれました(スライド11)

 もう1例3Dシミュレーションならではの症例をご紹介します。Monteggia(モンテジア)骨折は尺骨の骨折に伴い、橈骨頭が脱臼する外傷で、骨折を意識するあまり橈骨頭脱臼が看過されやすいことで注意すべき外傷です。尺骨を正確に、場合によってはやや過矯正気味に整復することで橈骨頭が整復され、初期治療が極めて重要です(スライド12)。さらに厄介な外傷として成長期の急性塑性変形(acute plastic deformity)があります。骨が若木骨折にも至らず、たわむような変形を生じるもので、骨折が明らかではありませんので看過されやすく、これに合併した橈骨頭脱臼はモンテジア骨折以上に見落とされます(スライド13:尺骨の前方凸変形と橈骨頭の前方脱臼)。これを3Dで評価してみると、尺骨の13°の伸展変形と36°の回外変形が判明しました(スライド14)。単純X-Pでも伸展変形は何とか評価できても、回旋変形は不可能ですし、CTを撮影しても患側だけでは回旋変形に気付くことは無いでしょう。健側鏡像と比較して初めて判明するものです。この症例も前例と同様なカスタムメイドテンプレート・ジグを用いて手術して良好な経過を辿りました(スライド15)

 高齢者の増加に伴い、撓骨遠位端骨折の変形治癒も問題になることが増えてきました。少々の変形は高齢者の場合、許容されますが、変形が強度になるとやはり矯正が必要となります(スライド16)。3Dシミュレーションの結果(スライド17)、矯正には スライド18 のような骨欠損に対し、腸骨移植が必要であることが判明しました。それを元に腸骨を採取し、掌側ロッキングプレートにて治療しました(スライド19)。今後はこのような症例が増加すると考えています。

 また変形矯正だけではなく、骨関節変形(後遺症など)における動態解析も三次元的に可能になりました。小児期の骨折が遺残した外顆偽関節は、肘関節を正常に矯正することは不可能です(スライド20)。そこで痛みの原因となる義関節部を骨接合するとどの程度可動域の損失が生じるのか。またどの位置で骨接合するのがADL上、また職業上理想なのか、などの検討がより具体的・現実的にできるようになりました(スライド21:このモデルはMRIの骨髄を抽出しているので骨の形が若干歪に感じられるかもしれません)

 さらに正常機能解剖を明らかにすることにより、実際の手術に応用することもできます。肘の内側側副靭帯(MCL)は肘の安定性保持に極めて重要で、野球選手に対する靭帯再建術は「Tommy John手術」として一般にも有名です。術後復帰に時間がかかるため、少しでも有利な再建法をわれわれも考えてきました。そこで正常肘を完全伸展から完全屈曲まで5肢位でCTを撮影し(これは私の肘です)、それにより肘関節の回転軸を割り出し、その時のMCLの各繊維成分の長さを計測し、どの線維がどの角度で最も緊張するのかを調べました。そうすると回転軸は内側上顆の前下方、内側上顆の幅の内2/3付近に収束し、ここに骨孔を穿てば回転軸上に乗りますから、理論的に尺骨の骨孔がどこにあってもisometricな靭帯が再建できることが分かりました(スライド22)。それに従い、われわれはJobe博士が報告した「Tommy John手術」ではなく、pull-out法により、できるだけisometricな靭帯再建をするようにしています(スライド23)

 このように当院の手外科では、最先端の技術を駆使して、最善の治療(もちろん重要な手のリハビリテーションを含みます)を提供しようと日々、精進しております。今後も地域の先生方の信頼を得られ、頼っていただける存在になるべく研鑽を積んでまいりますので、何卒よろしくお願いいたします。

※ 詳細な内容は以下をご参照ください。(実症例の写真も掲載しております)
  ▼すべての図表をPDFで見る(1.53MB)


図1.部位別がん罹患数の推移

スライド1.行岡病院 手外科(1)


図2.転移性脳腫瘍の治療方針

スライド2.行岡病院 手外科(2)


図3.脳転移の発生頻度

スライド3.3D simulation:骨変形の評価(1)


図4.脳転移に対する治療法・治療成績

スライド4.3D simulation:骨変形の評価(2)


図5.治療法別生存曲線(開頭術 vs SRS)

スライド5.3D simulation:骨変形の評価(3)


図5.治療法別生存曲線(開頭術 vs SRS)

スライド6.3D simulation:骨変形の評価(4)