病診連携

住友病院

耳鼻咽喉科頭頸部外科 笹井久徳


合併症に配慮した当科での甲状腺手術について(2022.3.30)

甲状腺手術において温存することが必須となる神経には【1】反回神経、【2】上喉頭神経外枝、【3】頚神経ワナ(反回神経再建時に使用)がある。
当科では甲状腺手術の際に術中神経モニタリング装置(NIM)を使用し確実な神経の温存を心がけている(電極付き挿管チューブは両側声帯麻痺のリスクがある甲状腺全摘術や反回神経再建の可能性が考慮される場合に使用している)。
術中神経モニタリング装置(NIM)は必ず使用するものの電極付き挿管チューブは比較的高価なこともあり、前述のように症例を絞って使用しているが電極付き挿管チューブを使用しない場合においても刺激プローブのみを使用してlaryngeal twitch法(用手法)で喉頭筋の収縮を確認し、確実に反回神経機能が温存されていることを確認している。
上喉頭神経外枝の走行にはさまざまなバリエーションが存在することが知られており、そのような個人差のあるなかでも外枝を確実に温存するために術中神経モニタリング装置(NIM)を用い、輪状甲状筋の収縮の有無を目視で確認することで神経の走行を同定し確実な神経温存を心掛けている。
甲状腺乳頭がんの手術においては腫瘍の浸潤のために反回神経の合併切除を余儀なくされる場面にしばしば遭遇することがある。しかしながら反回神経再建をおこなうことで術後に良好な音声機能を獲得できることが報告されている。反回神経再建には様々な方法があるが当科では主に頚神経ワナを用いた反回神経再建術をおこなっている。神経再建に利用する頚神経ワナは手術の序盤で術野にあらわれるが例え神経再建の可能性が低いと予想される症例においても万が一に備え、常に確実に温存するようにしている。
甲状腺がんの手術では胸骨甲状筋は甲状腺に付けて切除するため頚神経ワナの胸骨甲状筋への分岐枝は切断し、胸骨舌骨筋への分岐枝は温存する。このように頚神経ワナを残すことで反回神経再建に必要となる十分な長さを確保できる。
甲状腺全摘術の術後合併症のリスクとして副甲状腺機能低下症がある。甲状腺がんの手術ではリンパ節組織の郭清をおこなうため、下副甲状腺は合併切除されることになるが郭清組織の中から副甲状腺を探し出し、胸鎖乳突筋内に移植することで副甲状腺機能を回復させることができ、当科では必ず副甲状腺の移植をルーティンでおこなっている。そのため当科での甲状腺全摘術後の副甲状腺機能温存率は98.8%と良好な成績が得られている。

※ 詳細な内容は以下をご参照ください。
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近年、甲状腺全摘術が増加している

近年、甲状腺全摘術が増加している


甲状腺周囲の解剖

甲状腺周囲の解剖


用手法・触診法(Laryngeal Twitch法)

用手法・触診法(Laryngeal Twitch法)


頚神経ワナを確実に温存(万が一の反回神経再建に備えて)

頚神経ワナを確実に温存(万が一の反回神経再建に備えて)


甲状腺全摘術後副甲状腺機能温存成績

甲状腺全摘術後副甲状腺機能温存成績